こんにちは。高齢者の糖尿病についてのコラムの第7回目です。今回は前回に引き続き、薬物治療における治療薬について詳しく見て参りたいと思います。
前回、経口血糖降下薬は1)インスリン抵抗性改善系、2)インスリン分泌促進系の薬剤についてお話しさせて頂きましたので、今回は3)糖吸収・排泄調節系の薬剤である⑥α-グルコシダーゼ阻害薬(α-Gl)、⑦SGLT2阻害薬についてお話しさせて頂きます。最後までどうぞお付き合いください。
⑥α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
糖尿病患者においては、インスリンの分泌する働きが低下しているために、食後のインスリンの分泌が遅れてしまい、血液中のブドウ糖が速やかに処理できずに血糖が上昇してしまいます。これがいわゆる食後高血糖です。α‐グルコシダーゼ阻害薬は、α‐グルコシダーゼの働きを阻害することで糖質の分解を抑えて、消化・吸収を遅らせることで食後の血糖値の上昇をゆるやかにして、食後高血糖になりにくくします。α‐グルコシダーゼ阻害薬により食後血糖の上昇がゆるやかになると、インスリン分泌の上昇のタイミングが近くなるため、インスリンが効果的に作用できるようになるので食後高血糖が改善します。軽症2型糖尿病で空腹時血糖値がそれほど高くなく、食事療法・運動療法が出来ているのにも関わらず食後高血糖がみられ、インスリン非依存状態を示す場合に用います。中等症以上では併用薬として考慮されます。開腹術の既往の患者や肝障害の患者では使用を控え、放屁、腹部膨満感を来す事があり、腸管気腫症、肝機能障害、腸閉塞などの重篤な副作用にも注意が必要です。
⑦SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管でのブドウ糖再吸収を抑制し、尿からの糖分の排泄を促進する新しいお薬です。体重や血圧低下、脂質の改善作用が期待されます。食事・運動療法を行っても十分な血糖コントロールが得られない方、肥満傾向の方などに用いられることが多いです。尿の回数や量が増えることで、脱水症状を引き起こすことがあります。高血圧を合併している患者さんは利尿剤服用による脱水に注意して慎重に投与する必要があります。高齢者でも心血管疾患を合併している患者ではSGLT2阻害薬服用により心不全による死亡減少や腎機能悪化抑制が報告されていますが75歳以上の高齢者や老年症候群を合併した前期高齢者においては慎重投与となっています。SGLT2阻害薬は認知機能や身体機能が保たれた2型糖尿病患者で使用が推奨されます。最近、1型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の使用が認められるようになりましたが、75歳以上の高齢者での安全性は明らかではありません。
又、薬物治療は経口血糖降下薬の他、⑧GLP-1受容体作動薬と⑨インスリン製剤といった注射製剤もあります。インスリン製剤は1型糖尿病、感染症、手術(小手術を除く)、ステロイドホルモン使用の場合や経口血糖降下薬などで血糖コントロールが困難な場合に用いられます。インスリンの注射方法には⑴持効型インスリン1日1回注射、⑵(超)速効型インスリン毎食(直)前1日3回注射、⑶混合型(中間型)インスリン1日2回、⑷強化インスリン療法などの注射方法があります。いずれも血糖自己測定を行い、低血糖に注意しながら使用します。 インスリンの自己注射が困難で注射の十分なサポートが得られない2型糖尿病患者の場合は、⑷強化インスリン療法から⑴1日1回の持続型インスリンまたは⑧週1回のGLP-1受容体作動薬に変更する場合もあります。
⑧GLP-1受容体作動薬
GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制することにより血糖降下作用と体重減少作用を有する注射薬です。嘔気、嘔吐などの消化器症状に注意が必要です週1回の製剤は自己注射が困難な場合、訪問看護などで使用されるケースがあります。冷や汗がでる、気持ちが悪くなる、手足がふるえる、ふらつく、力がぬけた感じがするなど低血糖症状が現れた場合は吸収の速い糖分などを摂取します。
⑨インスリン製剤
1型糖尿病は、インスリンが非常に不足しているか又は全くないため、調整を自然に行うことができません。そこで、1型糖尿病ではインスリン製剤を自己注射することで体の外から補って、健康な人と同じ血糖値の変動パターンに近づけて血糖コントロールを図ります。
自身で出せるインスリンの量や血糖値の状態、からだの状態などに合わせて、使用する製剤や回数、量を決めて行きます。インスリン製剤の打ち方には、いくつかのパターンがあり簡単に図に示します。
どの薬が適切かについては、検査等にて測定し主治医が決定致します。血糖値を下げる注射薬の実際の使用方法については、担当の医療スタッフと確認をしてください。
当院では生活習慣に関する指導から糖尿病の専門的な治療まで手厚いサポートをお約束いたします。また栄養管理士や糖尿病療養指導士も在籍しており、専門的な治療により早期発見・早期治療に努めております。気になられることはぜひ当院まで気軽にご相談ください。