こんにちは。高齢者の糖尿病についてのコラムの第6回目です。今回は薬物治療における治療薬について詳しく見て参りたいと思います。
前回、経口血糖降下薬は作用機序(薬剤がその薬理学的効果を発揮するための特異的な生化学的相互作用)別に、1)インスリン抵抗性改善系、2)インスリン分泌促進系、3)糖吸収・排泄調節系の3つに分類される事をお話しさせて頂きました。まずはそれぞれの種類がどのような特徴を有するか見てみましょう。
1)インスリン抵抗性改善系薬剤
インスリンの働きが悪くなる時に用いられるインスリン抵抗性改善系の薬剤は主に2種類、①ビグアナイド薬と②チアゾリジン薬があります。
肝臓で糖をつくる働きを抑え、筋肉などでのブドウ糖の利用をうながし、血糖値を下げたり、脂肪や筋肉などでインスリンの効きをよくして、血液中のブドウ糖の利用を高めて血糖値を下げます。
2)インスリン分泌促進系薬剤
インスリンの分泌量が少なくなった時に用いられますが、主に3種類③スルホニル尿素(SU)薬、④速効性インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、⑤DPP-4阻害薬があります。
作用機序や作用時間も様々で、膵臓のβ細胞に働きかけてインスリン分泌を促したり、インスリンの分泌を促すホルモンであるGLP-1の働きを高めたりして血糖値を低下させます。
3)糖吸収・排泄調節系薬剤
インスリンの働きが悪くなったり量が減ったりしてインスリンの作用が不足すると食後に高血糖を起こしたり空腹時に高血糖を起こしたり致します。これらを改善薬剤は主に2種類⑥α-グルコシダーゼ阻害薬(α-Gl)、⑦SGLT2阻害薬があります。小腸でのブドウ糖の分解・吸収を遅らせたり、尿からの糖分の排泄を促進することで、血糖値の上昇を抑えたり血糖値を低下させたり致します。この様に、作用点や作用機序、作用時間やいつ作用させたいか、又服用する薬剤により発現が懸念される副作用別に薬剤は使い分けられます。種類がたくさんありますので、本回では、1)インスリン抵抗性改善系、2)インスリン分泌促進系について解説致します。それぞれについて詳しく特徴を見ていきましょう。
①ビグアナイド薬
肝臓では常時ブドウ糖が産生されていますが、乳酸やアミノ酸などのブドウ糖以外の物質からブドウ糖を産生する糖新生により過剰に増える事がありますが、インスリンはブドウ糖が過剰に産生されないように調整をしています。2型糖尿病ではインスリン分泌能の低下やインスリン抵抗性によって、糖新生が過剰になってしまいますが、ビグアナイド薬は、この肝臓で行われている過剰になった糖新生を抑えることで空腹時の血糖値を低下させます。そのほかに、腸でのブドウ糖の吸収を抑えたり、骨格筋などのインスリン感受性を改善してブドウ糖の取り込みを増加させるなどの働きにより、間接的なインスリン抵抗性の改善効果を得ることができ、さらに食後高血糖の改善もするといわれています。肥満とインスリン抵抗性による高インスリン血症がみられる2型糖尿病への使用が最もてきしており、後述するSU薬に比べると血糖値を下げる力は弱いのですが、血糖コントロール改善により体重が増えにくいとされています。なお、肥満でない人に用いても血糖改善効果がみられることもあります。75歳以上の高齢者では慎重投与となりますが、腎機能が保たれていれば使用可能です。eGFRの値が30~60mL/分/1.73m2未満は禁忌であり、ブホルミンは高齢者の服用は禁忌となっております。嘔気、嘔吐などの消化器症状にも注意が必要です。食事摂取ができないようなシックデイの際は中止し無理に服用する必要はありません。又、稀ではありますが、ビタミンB12欠乏にも注意が必要です。
②チアゾリジン薬
インスリンは筋肉(骨格筋)、肝臓、脂肪組織で行われる糖代謝を促進する働きがあり、これらの組織がブドウ糖を取り込んでエネルギーに利用したり、脂肪として蓄えたりすることで血糖の調整をしております。2型糖尿病ではインスリンの分泌の働きが弱まるタイプのほかに、インスリン抵抗性の状態にあるタイプもあります。インスリン抵抗性改善薬は、主に脂肪組織に働きかけて脂肪細胞から分泌されるインスリン抵抗性を引き起こす物質を減少させて、その名の通りインスリン抵抗性を改善することで血糖を下げる薬です。食事療法・運動療法行っているにも関わらず良好な血糖コントロールが得られず、インスリン抵抗性による高血糖がみられる場合に用いられます。また、すでにSU薬などの服薬を行っている場合の併用薬としても用いられることもあります。低血糖を起こす可能性は低いですが、患者さんによっては、むくみや体重が増えることがあります。又、心不全患者、心不全既往者、肝機能障害、膀胱がん患者には使用致しません。女性においては骨折も注意が必要となります。少量から始め慎重に投与していきます。
③スルフォニル尿素薬(SU薬)
2型糖尿病には、インスリンを分泌する働きが弱まって分泌量が少なくなるため、血液中のブドウ糖が処理できずにだぶついた状態(高血糖)のタイプと、インスリンのきき方が悪くなって血液中のブドウ糖が処理できずにだぶついた状態のタイプがありますが、SU薬は、インスリンの分泌する働きが弱まり高血糖を来しているタイプに効果があります。すい臓のランゲルハンス島にあるインスリンを分泌するβ細胞に直接働きかけて分泌を促進し(インスリン分泌刺激作用)、基礎分泌、追加分泌の「量」を増加させることで血糖を下げます。服用後、食事をとらないと低血糖を起こす可能性がありますで必ず食事を摂りましょう。又、低血糖を起こすリスクがありますので少量から使用を開始致します。BMIが低め(肥満でない人)で、食事療法・運動療法を行っているにも関わらず、インスリン基礎分泌量が少ないまま改善せず、空腹時血糖値が高い人などに用います。すい臓でインスリンを分泌出来ても、その分泌量が少ないために良好な血糖コントロールが出来ない場合に、インスリンの分泌を補う目的で用いられます。高齢者における低血糖の症状とその対処法、シックデイのときに、減量・中止することを介護者にも説明が必要です。
④速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
2型糖尿病では、糖分の摂取後すぐにインスリンを分泌して、血糖を速やかに低下させる働きが低下しているタイプの場合、血糖の上昇とインスリン分泌のタイミングが合わないことがあります。速効型インスリン分泌促進薬は、インスリン分泌のスピードを早めて、食後の血糖の上昇を抑える働きがあります。食後のインスリン分泌量を増加させる作用はSU薬に比べて弱くなっていますが重症低血糖は少ないとされています。比較的軽症の2型糖尿病で、インスリン非依存状態かつ、食事療法・運動療法を行っても十分に血糖が下がらず、食後高血糖がみられる方に、食後高血糖の改善を目的に用います。高度腎機能障害がある場合や高用量で使用する場合には低血糖に注意が必要です。又、1日3回食直前に服用することから服薬アドヒアランスの低下にも注意します。
⑤DPP-4阻害薬
インスリンの分泌をうながすホルモンであるGLP-1の働きを高めます。GLP-1は血液中の血糖の濃度に依存しており、食事をとると小腸から分泌されます。血糖値の上昇に伴ってインスリン分泌が増加するため、単独投与では低血糖になりにくいとされており高齢者には使いやすい薬剤です。また、1日1回服用する薬剤と2回服用する薬剤、週1回服用する薬剤があり、食事の影響がないので食前・食後のどちらの投与でもよいことや、血糖コントロールの改善に伴う体重の増加のリスクが低いことなどが利点として挙げられています。又、腎機能による用量調整を必要する薬剤と必要としない薬剤がある事も高齢者には使いやすい点です。DPP-4阻害薬を高用量のSU薬に併用する場合にはSU薬の減量が必要です。
次回は3)糖吸収・排泄調節系であるα-グルコシダーゼ阻害薬(α-Gl)、SGLT2阻害薬といった経口薬剤だけではなく、1型糖尿病に用いられるGLP-1受容体作動薬とインスリン製剤といった注射製剤についても詳しくお話させて頂きます。
当院では生活習慣に関する指導から糖尿病の専門的な治療まで手厚いサポートをお約束いたします。また栄養管理士や糖尿病療養指導士も在籍しており、専門的な治療により早期発見・早期治療に努めております。気になられることはぜひ当院まで気軽にご相談ください。